2020年06月10日 更新
美術館で作品を鑑賞する時に、展示室内が暗いと感じたことはないでしょうか?
もっと明るい方が鑑賞しやすいように思うかもしれませんが、暗くしていることにも実は理由があります。
美術作品、特に絵画作品は光に弱く、長時間強い光にさらされると退色や変色などの劣化を引き起こしてしまうことがあります。身近な例で、色が白っぽくなったポスターを見かけたことはありませんか?あれも光が引き起こした劣化によるものです。このような理由から、美術館では展示室内を少し暗く設定し、作品への負担を軽減するようにしています。
少し詳しい話をしますと、光が照らしている面の明るさの度合いを「照度」(単位:ルクス)といい、例えば居間で読書をする際に推奨される照度は500ルクス程度と言われています※1。しかし、美術作品に当てることができる光の照度は、比較的光に敏感な油彩画などで150〜180ルクス、非常に光に敏感な水彩画や素描などで50ルクスと、日常生活よりも暗めの値が推奨されています※2。
美術館には、多くの人に作品を鑑賞していただく役割がある一方、作品を守り後世へ伝えていくという、資料の「活用」と「保存」の役割があります。作品を展示すると多少なりとも劣化や損傷は免れませんが、美術館は、この相反する二つの役割の両立をできる限り実現させるために、作品の展示や公開といった「活用」を行ないながら、作品の照度調整や、他にも温湿度管理など「保存」のための様々な工夫をしています。
※1 JIS照明基準総則(JIS Z9110-2010)より
※2 ICOM(国際博物館会議)(1977)の基準より