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コラム

作品に隠されたメッセージ《あなぐま》

2018年08月02日 更新

パメーラ・ジューン・クルック(1945~)はイギリスの現代アーティストです。波型や丸型の変形カンヴァスを使ったり額縁にまで描きこむ作風で、独自の世界を表現しています。彼女の作品にはよく可愛らしい動物たちが登場しますが、作品には時に思いもよらないメッセージが込められていることがあります。

《あなぐま》という作品にも一見しただけではわからない、隠されたメッセージがあります。そのメッセージを読み解いていきましょう。読み解くヒントは、描かれた年です。

作品を見ると、一匹のあなぐまが佇んでいます。後ろには列をなした畜牛が行進しています。そして描かれた年は2013年です。

実はクルックのいるイギリスでは2013年にある社会問題が起きていました。畜牛に結核菌が蔓延していたのです。その媒介となっていたのがあなぐまでした。イギリス政府は結核菌の拡大防止のため、あなぐまを殺処分する間引き措置を打ち出します。この措置には抗議が殺到し、2013年6月にはロックバンド「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイ主導の抗議デモにまで発展し、大きな社会問題となりました。

この作品は、間引き措置が実施されたグロースターシャー州でクルックが偶然見かけたあなぐまを元に描かれています。このあなぐまは幸運にも殺処分から免がれることができましたが、いつまた殺処分されるかわかりません。とても可愛らしく孤独に描かれているあなぐまからは、この間引き措置の残酷さをヒシヒシと感じます。

私たちは、この作品の隠されたメッセージに気づいた時、このあなぐまがその後も殺処分されていないことを願わずにはいられません。

執筆者:学芸員 佐藤芳哉

Crook-PR03
パメーラ・ジューン・クルック《あなぐま》
2013年/色材を混ぜたジェッソ・カンヴァス・木製フレーム
公益財団法人諸橋近代美術館蔵 ©PJ Crook 2018

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