2015年04月20日 更新
前回の「美術はなぜ大切なのか 前編」では、学校教育で美術がどのような役割を担っているのかをご紹介しました。今回は、近年注目されている「対話型作品鑑賞」に焦点を当てたいと思います。
対話型作品鑑賞は少人数でグループをつくり、対話をしながら作品を鑑賞します。その際に、作品の解釈や知識を一方的に提供するような解説を行わないのが特徴です。参加者の年齢によっては、作家の時代背景や技法の革新さを理解できない場合や、固定観念から柔軟な発想が生まれにくくしてしまう可能性があるからです。
実践例としては、2~3分黙って作品を見た後、進行役が参加者に質問を投げかけます。
「この作品に何がみえますか?」
「ここでなにが起こっていますか?」
そして、参加者から出た発言に対して、どこを見てそう思ったのか、どうしてそれがわかるのか、と質問を重ねていきます。
作品をいつもよりも注意深く見ることによって観察力を高め、自分の発見や意見を発表し、人の意見にも耳を傾けることにより、主観的な考え方から脱し、なぜ自分(または他人)がそう見て、考えているのかを論理的に考える能力が発達すると考えられています。そして、この手法の面白いところは、グループで最終的にまとめた意見が、調査研究で解明されていることを言い当てている場合も多いということです。
美術館に行き、親子で作品を鑑賞する際には、ぜひこどもに質問を投げかけてみてください。出てくる発言は、時には突拍子もなく感じるかもしれませんが、「なぜそう思ったの?」と聞くと案外納得のいく返事が得られることもあります。また、おとなも先入観にとらわれず、作品からの発見や考えをこどもと話し合ってみましょう。きっと作品の見方が広がる、楽しい体験になるはずです。
ただ、展示室の中で話すことにためらいがある方もいるようです。「作品を守る」「他のお客様の迷惑にならない」という美術館マナーの大前提を守っていれば、展示室内での作品に関する会話はむしろ歓迎されるものではないでしょうか。美術作品をもっと自由に、気軽に鑑賞し、こどもの感性や情操を育んで頂きたいと思います。
執筆者 : 学芸員 稲田由希
※この文章は2015年3月17日発行の富田幼稚園会報誌「はとぽっぽ」に掲載された寄稿文を再編集して掲載しています。