2015年05月13日 更新
20世紀を代表する芸術家、サルバドール・ダリ(1904-1989)。彼は1930年代にいち早くヨーロッパからアメリカへ渡り、意識下の心象を表現する芸術活動、シュルレアリスム(超現実主義)を世界的に浸透させた人物でもあります。
ダリが初めてアメリカへ渡ったのは1934年。当時、既にパリでシュルレアリスムの芸術家として活躍していたダリですが、彼を取り巻く環境には暗雲が漂っていました。シュルレアリスト・グループの中で、ダリの奇妙な振る舞いや政治的立場の相違が原因となり、他のメンバーとの関係が悪化していたのです。特に、シュルレアリスムの始祖であり、グループの実質的な主導者であったアンドレ・ブルトン(1896-1966)との仲は険悪でした。
葛藤の日々を送る中で、ダリは心の支えとなった妻、ガラの肖像画を多数制作しています。その中の一つが、本展で日本初公開となる《ガラとロブスターの肖像》です。力強く前を見据えたガラの頭には、真っ赤なロブスターが乗せられています。ダリはロブスターの殻を、「あらゆる冒涜から身を守ることができる鎧」だと考え、好んで作品に登場させました。繊細な性格のダリを守ってくれるガラは、ロブスターの殻と同じ、鎧の役割を果たす存在だったのです。ガラの鼻からは、飛行機が飛び立ち、新天地への憧れを感じさせます。
ガラと共にアメリカへ上陸したダリは瞬く間に注目を集め、「シュルレアリスムといえばダリ」と認識されるまでの人気を博しました。その人気が頂点に達した1939年、ニューヨーク万国博覧会への参加を通し、ダリの芸術は大きな局面を迎えます。この万博で、ダリは絵画、オブジェ、音楽とダンスを複合させたパビリオン《ヴィーナスの夢》を制作しました。当時としては余りにも奇抜なダリの表現に、万博の主催者は難色を示しました。しかし《ヴィーナスの夢》は、現代における体感型芸術「インスタレーション」の先駆けとして、非常に大きな意義を持つ作品だったのです。
6月28日まで開催中の企画展「アメリカが愛したダリ」では、《ヴィーナスの夢》の一部再現展示を設けています。精神の抑圧から解放された、ダリのシュルレアリスムをどうぞご体感下さい。
執筆者 : 学芸員 大野方子
※主文は4月23日福島民友新聞朝刊に掲載されたものを加筆修正しています。