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コラム

作品の燻蒸

2014年11月10日 更新

当館では、平成26年6月、新たにサルバドール・ダリ(1904-1989)の油彩画を購入致しました。作品を購入する際には、事前に購入先からコンディションレポートを提出してもらいます。コンディションレポートとは、その作品の健康状態を把握できる、いわばカルテのようなものです。このレポートの内容によっては、作品を修復したり、額装を新調したりと、一般公開の前に準備を整えておく必要があります。

今回、購入した《ガラとロブスターの肖像》(1934年頃)は作品そのものに大きな損傷はなかったものの、額に虫喰いがありました。虫が全滅しているという確証がなく、被害が拡大する可能性もあったため、収蔵庫に収容する前に作品の燻蒸を行いました。

写真:燻蒸庫の中に収容されたクレート。中には作品が入っています。

写真:燻蒸庫の中に収容されたクレート。中には作品が入っています。

燻蒸とは密閉空間を薬剤等で満たし、作品の殺菌殺虫を行う処置のことをいいます。これは、日本の博物館・美術館では1990年代まで頻繁に行われていました。しかし、それまで一般的な燻蒸剤として用いられていた臭化メチルがオゾン層の破壊を引き起こすとして2004年に使用禁止とされたこと、農業分野では化学性薬剤の多量使用による環境や人体への悪影響が既に指摘されはじめたことを受け、博物館・美術館においても薬剤に頼らない作品管理が推奨されました。現在、国内の博物館・美術館では、むやみな燻蒸は行われなくなっています。

しかし、設備や人的・期間的な制約を受ける場合、カビや害虫の被害が甚大な場合等には、薬剤燻蒸を行うこともあります。このとき、認可されている薬剤のなかで、作品への影響が少ないものを選定して燻蒸を行うのが一般的です。

また、薬剤に頼らない作品管理を実践するためには、保存環境を整え、未然にカビや害虫の被害を防ぐことが肝要です。現代の博物館・美術館では、なるべく薬剤の使用を控え、作品にも人にも優しい保存管理の在り方が求められているのです。

参考文献
川上裕司・杉山真紀子『博物館・美術館の生物学 カビ・害虫対策のためのIPMの実践』雄山閣、2009年
三浦定俊・佐野千絵・木川りか『文化財保存環境学』朝倉書店、2004年
『文化財のための保存科学入門』角川書店、2002年

執筆者:学芸員 齋藤友佳理

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