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コラム

ダリから始まる収集秘話

2014年11月21日 更新

冬期休館まであとわずかとなりました。冠雪した美しい磐梯山を背景に、西洋近代の作品を静かに落ち着いて鑑賞することができる期間です。
11月30日(日)まで、当館では「Episode15~コレクションの軌跡~展」を開催しています。今回はその中から作品に関する収集秘話をご紹介します。

ゼビオ株式会社の創立者でもある諸橋廷蔵がダリに魅了されたのは、1975年にスペインのダリ劇場美術館を訪れたことがきっかけでした。奇抜な外観と美術館の常識を打ち破る大胆な展示に、廷蔵は大きな衝撃を受けます。
以来、ダリ芸術に強い関心を抱き、個人的に画集等の収集を開始しますが、すぐに作品を購入することはできませんでした。機会が訪れたのは1991年。三越美術館・新宿で開催された「ダリ展」出品の彫刻、版画作品等206点を一括で購入することができたのです。その瞬間、廷蔵の頭の中に美術館設立の構想が忽然と現れました。

廷蔵は設立する美術館にダリの油彩画が必要不可欠だと考えていました。1993年、銀座のとあるビルの中に偶然足を踏み入れると、オークション会社の事前下見会が行われており、その中にダリの油彩画《ビキニの3つのスフィンクス》が展示されていました。画集でしか見たことの無い作品が突如目の前に現れたことに廷蔵は驚きました。
廷蔵はオークションに参加し、この作品を落札。《ビキニの3つのスフィンクス》はダリ油彩画コレクション第一号となりました。その後、ダリを中心とした西洋近代絵画を世界2大オークション会社であるサザビーズ、クリスティーズのオークションで落札していきます。
1999年6月、諸橋近代美術館開館時にはコレクション数371点となっていましたが、廷蔵の作品収集に対する情熱は衰えませんでした。理事長として、長男で館長の諸橋英二、職員とともに作品の調査・選定に当たりました。

ゴッホ《座る農婦》は2002年に購入した作品です。当初、廷蔵は作品の大きさが小さすぎること、初期の作品であるためゴッホらしい作風ではないことから、入札には消極的でした。しかし英二から当館コレクションの中でのゴッホの重要性と国際的なゴッホ作品の貴重性を説かれ、オークション会場であるニューヨークへ向かうことを了承します。
廷蔵は2003年に不慮の事故で亡くなります。このニューヨーク行きが、親子2人での最初で最後の出張となりました。

ヴィンセント・ファン・ゴッホ 《座る農婦》 1884-1885年 油彩・カンヴァス・板 諸橋近代美術館 所蔵

ヴィンセント・ファン・ゴッホ 《座る農婦》
1884-1885年 油彩・カンヴァス・板
諸橋近代美術館 所蔵

作品が制作され、美術館に収蔵されるまでの間には様々なエピソードがあります。本展では諸橋廷蔵というコレクターの思いを通して作品を違った角度からご覧頂ければ幸いです。

執筆者:学芸員 稲田由希
この文章は2014年9月25日(木曜日)付 河北新報に掲載された寄稿文を再編集して掲載しています。

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