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コラム

美術館と虫

2015年01月13日 更新

油彩画や版画、彫刻などの作品を扱う美術館にとって虫は大敵です。特に作品の材質が有機物の場合、作品そのものが食べられたり、フンで作品表面が汚されたりします。深刻な場合には、作品本来の形態が失われ、鑑賞出来なくなることもあります。

一般的に美術館は、作品と鑑賞者のために温度20℃・湿度50%程度(作品の材質や周辺環境により異なります)に保たれています。これは虫にとっても過ごしやすい環境といえます。虫たちは快適な環境と餌を見つけると、そこで産卵・営巣し、子孫を増やそうと努めるでしょう。そのため、美術館は様々な策を講じて虫の侵入や滞在を阻止します。例えば、出入り口に隙間があればシール材で塞いだり、捕虫器を設置したりすることも有効でしょう。

では、美術館では一体どんな虫が問題になるのか、当館の事例を踏まえてご紹介しましょう。当館は、磐梯朝日国立公園(標高およそ800メートル)という自然豊かな環境の中に位置しています。秋頃になると、美術館周辺ではアシマダラカマドウマ(学名:Diestrammena naganoensis Mori)が散見され、館内の捕虫器にもかかるようになります。人の出入りに伴って、あるいは扉の隙間から館内に入り込むと予想されます。アシマダラカマドウマはバッタ目カマドウマ科の昆虫で野外の洞穴や朽木に群生するだけでなく、人家の中や床下にも生息します。動植物を食べる雑食性で、掛け軸やその他の作品を食害することが分かっています。

当館では、これまで作品への食害が認められたことはありません。しかし、今後も作品が被害に遭わないためには、展示室や収蔵庫といった作品があるエリアへの侵入を防ぐ必要があります。今年度は、建物内部だけでなく外側の出入り口付近にも捕虫器を設置したり、忌避剤を散布したりすることで一定の効果を上げることが出来ました。しかしながら、対策は万全とはいえず、現在はより強化した方策を検討中です。

日本国内だけでも文化財害虫(作品の脅威となる虫のことを指します)はかなりの数に上りますが、その美術館の置かれた場所の気候風土により、生息する虫の種類は異なります。虫による被害は放っておけば収まるということはありません。まずは、捕虫器などでどんな虫がいるかを確認し、対象に合った策を講じることが第一歩です。

写真:捕虫器にかかったアシマダラカマドウマ

写真:捕虫器にかかったアシマダラカマドウマ

参考文献
東京文化財研究所 編『文化財害虫事典』クバプロ、2004年
執筆者:学芸員 齋藤友佳理

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